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東京地方裁判所 平成10年(ワ)23789号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 紀藤正樹

被告 株式会社光文社

右代表者代表取締役 平野武裕

被告 折敷出慎治

被告 内野成礼

被告 藤田大輔

右四名訴訟代理人弁護士 山之内三紀子

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金二五〇万円及びこれに対する平成一〇年一〇月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告株式会社光文社は、原告に対し、別紙一記載のとおりの謝罪広告を別紙二記載の掲載要領に従い被告株式会社光文社の発行する週刊宝石及び読売新聞、朝日新聞の全国面に各一回掲載せよ。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告に対し、連帯して金八三二万円及びこれに対する平成一〇年一〇月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、各自原告に対し、被告株式会社光文社の発行する週刊宝石及び読売新聞、朝日新聞の全国面に別紙三記載の謝罪広告を各一回掲載せよ。

三  仮執行宣言

第二事案の概要

本件は、元横綱B(本名・C。以下「B」という。)の妻である原告が、被告株式会社光文社(以下「被告光文社」という。)発行の平成一〇年一〇月二九日付「週刊宝石」第八二〇号誌上に、原告が銀座のホステスをしていた過去がある等の記事が掲載されたことなどにより名誉を毀損されたとして、不法行為に基づき、八三二万円の損害賠償請求及びこれに対する不法行為日である平成一〇年一〇月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払並びに謝罪広告の掲載を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、Bと平成六年六月に結婚し、現在同人との間に一男二女の子供がある。(争いがない。)

原告は、平成三年三月に成城大学文芸学部を卒業後、同年六月二六日に日本航空株式会社に入社し、平成六年一月三一日に同社を退社するまでスチュワーデス等として勤務していた。(甲第八及び第一四号証)

2  被告光文社は、図書及び雑誌の出版を目的とする株式会社であり、週刊宝石を毎週木曜日に発行している。(争いがない。)

3  平成一〇年一〇月一五日発売の同年同月二九日付週刊宝石第八二〇号(以下「本件週刊宝石」という。)には、別紙四のとおりの記事(以下「本件記事」という。)が掲載された。(争いがない。)

4  被告折敷出は、週刊宝石の編集長として、被告内野は、本件記事の担当編集者として、それぞれ本件記事の作成に関わった者であり、被告藤田は、本件記事の作成に当たって、被告折敷出及び被告内野より指示されて取材に当たった者である。(争いがない。)

5  被告光文社は、本件週刊宝石の発売日ころ、新聞や電車の中吊り広告に、「B夫人Aさん銀座ホステスの過去!」との記載がある本件週刊宝石の広告を行った。(以下「本件広告」という。争いがない。)

(一) 被告光文社が、本件広告を行った新聞は次のとおりである。(乙第五号証、弁論の全趣旨)

(1)  朝日新聞(東京、大阪、北海道版)

(2)  読売新聞(東京、大阪、北海道版)

(3)  中日新聞

(4)  北陸中日新聞

(5)  西日本新聞

(6)  北海道新聞

(7)  日刊ゲンダイ

(8)  静岡新聞

(9)  神戸新聞

(10) スポーツニッポン

(二) 被告光文社が、本件広告を行った電車の路線は次のとおりである。(乙第五号証)

(1)  総武線

(2)  常磐線

(3)  営団地下鉄線

(4)  都営地下鉄線

(5)  小田急線

(6)  西武新宿線

(7)  京王線

(8)  京阪線

(9)  名古屋地下鉄線

(10) 札幌地下鉄線

二  争点

1  本件記事及び本件広告が原告の名誉を毀損するものであるか否か。

(原告の主張)

名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価であり、この社会的評価を低下させたときは、名誉を毀損することになる。本件記事は、原告が現役のスチュワーデス時代に銀座のクラブでホステスとして勤務していたとの虚偽の事実を報道するものであるところ、横綱の妻でありいわゆる水商売の経験が全くない原告にとって、右のような経歴を報道されること自体が社会的評価を低下させるものであるのみならず、日本航空株式会社ではスチュワーデスが他の職業に就くことは就業規則上禁じられていたから、原告のスチュワーデスとしての経歴に照らしても、右報道は明らかに原告の社会的評価を低下させるものである。

また、Bと原告が最初に出会ったのが銀座のクラブであるという事実は、Bと原告が記者会見などで発表した交際のきっかけに関する事実が虚偽であり、原告が「嘘つき」であることを意味するから、この事実が原告の社会的評価を低下させることも明らかである。

さらに、本件広告は、「B夫人Aさん銀座ホステスの過去!」という断定的記載のものであり、しかも原告の顔写真まで掲載しているのであって、このような断定的広告が名誉毀損に当たることも当然である。

(被告らの主張)

現在の社会状況に照らしてみれば、若い女性が興味半分にクラブでアルバイトをしてみるということはさほど珍しいことではなく、その上、そのクラブが銀座の高級クラブであれば、一度くらい店に行ってみたいという気持ちになることは好奇心旺盛な二〇代の女性であれば想像には難くなく、その姿もちょっとした冒険として社会に微笑ましく受けとられることはあっても、それゆえにその女性の評価が損なわれるといった性質のものではない。

また、本件記事で原告のアルバイト先として書かれている高級クラブは、客層が厳選されており、客として入店することも容易ではない雰囲気がある。したがって、そのような客層の接待を勤めるホステスも、アルバイトとはいっても簡単には採用されるものではなく、容姿、礼儀作法など全てにおいて優れた女性だけが認められるものであることは、本件記事に描写されたクラブの様子を読めば、当然に読者にも伝わるものである。実際にも、このクラブからは著名なタレントを多数輩出しており、ここで勤務していたことが社会的な評価の低下を招いているとは考えられない。

さらに、本件記事は右事実を当時の様子を知るこのクラブの客らから聞いた証言を中心に構成しているものであるが、これらの証言はいずれも当時の原告の様子を淡々と、場合によっては好意的にすら表現しているものばかりであり、これら各個の表現の内容によっても原告の評価が損なわれたと見ることはできない。

したがって、本件記事は、その内容において何ら原告の社会的評価を損なうものではない。

2  本件記事について、真実性の証明あるいは真実であると信じたことについて相当の理由があり、かつ本件記事が公共の利益に関する事実を専ら公益を図る目的をもって公表されたものであるか否か。

(被告らの主張)

(一) 本件記事が摘示する、原告が平成五年三月から四月ころ、銀座の高級クラブでホステスとして数回アルバイトをしていたことがあるという事実は真実である。そのことは、次の事実から証明されており、仮に、本件記事において摘示された事実に真実とは異なる部分があったとしても、本件記事は取材担当者であった被告藤田を中心とする週刊宝石編集部による綿密な取材に基づき作成されたものであり、本件記事の内容が真実であると被告らが信ずることに相当の理由があるから、免責されるべきである。

(1)  被告藤田は、タレントの所属事務所の取締役をしていたD(以下「D」という。)から、原告が銀座のクラブ「X」(以下「X」という。)でホステスのアルバイトをしていたことをDが現認したこと、XにはBが所属しているY部屋(後に、Z部屋と合併)の力士が多数来店している事実がある等の供述を得ていた。

また、被告藤田は、本件週刊宝石が発行される二、三日前にDに本件記事のゲラ刷りを見せて内容について間違いがないかどうかを再度確認し、記事の正確さを確認した。

(2)  被告藤田は、原告がアルバイトをしていた当時、XでホステスをしていたEという源氏名の女性(以下「E」という。)及びDと同行してXに行っていた杉山を取材し、事実の裏付けを行った。

(3)  被告藤田は、Xの現店長である池田に事実確認の電話取材を行い、「当時、自分も店長じゃなかったのでよく分からないけれども、そう言う話は聞いたことがある」との曖昧で明確な否定をしない回答を得た。

(4)  被告藤田は、原告にも事実確認のために接触を試みた。

(二) 本件記事は、単に原告の過去のアルバイト歴を指摘したものではなく、原告とBとの出会いについて、一般に言われていることとは異なる事実があったことを公表することを目的とするものである。

Bは、日本の国技であると一般に認識されている相撲の横綱の地位にあるいわば公人であり、その妻である原告もBと共に国家の儀式などに参加する立場にあり、横綱の夫婦問題は国技である相撲の将来という問題も含んでおり、原告はBに準じた公人的立場にある。

したがって、その出会いの経緯について、真実を知らせることは広く国民の知る権利に奉仕するものであるといえる。また、原告とBの出会いの経緯については原告も同席して行われた婚約記者会見でも触れられていた事実であり、この点についての事実が国民の知る権利の対象となっていたことは原告自身も了解しているはずである。

したがって、被告らが掲載した本件記事において摘示した事実はいずれも国民の知る権利に奉仕し、この意味で公共の利益に関する事実であり、被告らが本件記事を掲載したのは、本件記事がこうした性質のものであることによるのであって、専ら公益を図る目的に出たものであるといえる。

(三) 以上の点から、本件記事の掲載が、仮に外形的には原告の名誉を毀損するものであるとしても、その行為には違法性がなく、不法行為による損害賠償請求は認められない。

(原告の主張)

(一) 原告は、銀座のクラブでホステスのアルバイトをしたことはなく、銀座のクラブでBと出会ったこともないから、本件記事は真実ではない。

(二) 被告らは、原告及びXに十数年勤務している池田が、原告がXでホステスのアルバイトをしていた事実を否定していたことを知っていたにもかかわらず、追加的、補充的な取材を全く行わずに、漫然と本件記事を公表しており、極めて悪質である上、むしろ故意に本件記事をねつ造して公表したのではないかという疑いもある。

また、本件事実の有無を確認するためには、原告とXの責任ある担当者への取材が必要かつ不可欠であるところ、原告からの取材に応じてもよいという申し出に対しては、これを拒否し、Xへの取材も電話での取材で済ませるなど漫然と適切な取材を行うことを怠っている。

(三) 原告は、Bの配偶者であるに過ぎず、著名人の配偶者であることでその著名人と同様な公人の地位に立つという関係にはない。

また、本件記事は、Bと原告の出会いの矛盾自体を報道するものではなく、ことさらに原告のホステスという過去を報道しており、専ら公益を図る目的であったとは評価できない。

3  損害、謝罪広告等

(原告の主張)

(一) 本件記事は、杜撰な取材に基づく悪質な記事であり、本件週刊宝石は九六万六〇〇〇部発行されたほか、本件広告が極めて多数の新聞紙に掲載されるなどしたため、原告は、本件記事と本件広告により、筆舌に尽くしがたい精神的損害を被った。この損害を金銭に換算すれば七〇〇万円が相当である。また、原告は、右損害を回復するために、原告訴訟代理人に対し、本件訴訟の提起追行を依頼し、その弁護士費用は、日本弁護士連合会報酬基準によると着手金及び報酬金を合計して一三二万円となるから、これも損害である。

以上の行為は、被告らの原告に対する直接の不法行為であると同時に、被告光文社においては、本件記事の掲載及び本件広告に当たり他の被告三名を使用した使用者責任も負うものである。

(二) 原告に生じた右損害を回復するためには、本件記事と同程度の字体と紙面を用いた別紙三記載の記事訂正と謝罪広告が不可欠である。また、本件広告が少なくとも読売新聞と朝日新聞紙上においては横約一九センチメートル縦一七センチメートル四方で掲載されていることから、読売新聞及び朝日新聞紙上に別紙三記載の記事訂正と謝罪広告を行うことが不可欠である。

(三) 本件記事は、パブリシティ又は早刷りとしてマスコミ関係者に発売日の前日である平成一〇年一〇月一四日に配布されており、本件損害に関する遅延損害金の起算日は、本件週刊宝石がマスコミ関係者をはじめとして不特定多数の目に触れる結果となる同日と解すべきである。

(被告らの主張)

(一) 本件週刊宝石の発行部数は五四万二〇〇〇部であり、原告の主張する九六万六〇〇〇部というのは、公称の発行部数である。

(二) 週刊宝石が、発売日の前日にマスコミ関係者にパブリシティとして配布されるという制度は存在しない。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件記事及び本件広告が原告の名誉を毀損するものであるか否か。)について

1  本件記事の内容は争いのない事実等に挙げたとおりであるところ、本件記事には、「仰天発覚!B夫人・Aさん銀座ホステスの過去」との表題が付けられているとおり、本件記事の内容は、読者に、原告がスチュワーデスとして勤務していた当時、銀座のクラブでホステスとして勤務していた事実があることを認識させるとともに、Bと原告が最初に出会ったのは当該銀座のクラブであったとの事実を認識させるものである。

2  前記争いのない事実等で挙げたとおり、原告は、平成三年三月に成城大学文芸学部を卒業し、同年六月二六日に日本航空株式会社に入社し、平成六年一月三一日に同社を退社するまでスチュワーデス等として勤務し、Bと平成六年六月に結婚したものであるが、原告が現役スチュワーデス時代に銀座のクラブでホステスとして勤務したことがあるという事実は、勤務したクラブの格付等にかかわらず、原告の右経歴等によって一般人が抱く社会的評価に影響を与え、その評価を一定程度減殺すると解されるのみならず、甲第九号証によれば、原告が勤務していた日本航空株式会社においては、職員がアルバイト等を行うことを就業規則により禁止していることが認められ、そのことは少なくとも同社の関係者に知られていたと考えられるから、本件記事は、原告がスチュワーデスとしての就業規則を遵守していなかったのではないかという印象を与える点でも、原告の社会的評価を低下させるということができる。

また、乙第四号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、Bと初めて出会ったのは、平成五年六月にBが相撲興行のため渡米した際に、カリフォルニア州サンノゼのレストランで食事を共にしたときである旨を、婚約発表の記者会見や週刊誌の対談記事で述べていたことが認められるが、本件記事は、それ以前に原告とBが銀座のクラブで出会っていたというのであり、読者に原告がBとの出会いについて殊更真実を秘匿していたとの印象を与える点においても、原告の社会的評価を低下させるということができる。

被告らは、Xが銀座における高級店であり、現在の社会情勢からみれば本件記事の内容は若い女性のちょっとした冒険として社会に微笑ましく受けとられるものであるから、原告の社会的評価を低下しないなどと主張するが、本件記事が原告の社会的評価を低下させると解されることは右に述べたとおりであり、この点に関する被告らの主張は独自の見解というべきであって、採用できない。

3  また、本件広告については、本件広告の読者が必ずしも本件週刊宝石を購入するなどして本件記事を読むとは限らないことからすれば、本件広告のみで名誉毀損の成否を判断すべきである。

そして、本件広告は、週刊誌の広告として、新聞紙上及び電車の中吊り広告として掲載されたものであるから、本件広告による名誉毀損の成否を判断するに当たっては、その広告の内容が原告の社会的評価を低下させるものであるかどうかにつき、週刊誌の広告内容についての普通の注意と読み方を基準として判断すべきものと解するのが相当である。

そこで、本件広告について検討すると、本件広告は、争いのない事実等で挙げたとおり、「B夫人Aさん銀座ホステスの過去!」との記載がなされたものであって、甲第五号証の一、二及び第六号証の一、二によれば、日刊新聞紙上においては、「週刊宝石」という雑誌名の横で、広告中最大の活字で記載されている記事の見出しの下という読者の目に留まりやすい部分に、原告の写真付きで同様の記載がなされていることが認められる。右広告内容は、原告が銀座でホステスをしていた経験があるとの本件記事において名誉毀損と認められる事実について断定的に述べたものであるから、たとえ本件広告が、本来本件週刊宝石の宣伝のためのものであって、この種の週刊誌の広告が、読者の購買意欲をそそるために、しばしばある程度の誇張をもってなされる場合もあると一般的に認識されているという週刊誌の広告の性質を考慮に入れても、なお一般の読者の通常の注意と読み方を基準とすれば、本件広告の文言どおり、原告に銀座でホステスとして勤務していたのではないかとの疑念を抱かせるものといわざるを得ず、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。

4  そうすると、本件記事及び本件広告は、いずれも原告の社会的評価を低下させるものとして、原告の名誉を毀損するものであると認められる。

二  争点2(本件記事について、真実性の証明あるいは真実であると信じたことについて相当の理由があり、かつ本件記事が公共の利益に関する事実を専ら公益を図る目的をもって公表されたものであるか否か。)について

1  すでに認定したとおり、本件記事の内容は、原告がスチュワーデスとして勤務していた当時、銀座のクラブでホステスとして勤務していた事実があり、Bと原告が最初に出会ったのは当該銀座のクラブであったというものであるが、これは、原告の経歴及び結婚に至る経緯を記述したものに過ぎず、その内容自体としては、私人の私生活上の行状に属するものであるというべきである。

もっとも、私人の私生活上の行状であっても、その社会的地位やたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによっては、その社会的活動等に対する批判ないし評価の一資料として、公共の利害に関する事実に当たる場合があると解される。

これを本件についてみると、原告は、すでに認定したとおり、本件記事が掲載された当時横綱であったBの配偶者であり、原告本人尋問の結果によれば、原告は、日本の国技とされている相撲の最高位である横綱の配偶者として、儀式やパーティー等に出席する場合があることは認められるものの、本件全証拠に照らしても、原告が公職ないしそれに準ずる公的地位にあったとか、一般社会に影響力を及ぼすような社会的活動にたずさわっていたと認めることはできない。さらに、本件記事で問題とされている原告が銀座のクラブでホステスとして勤務していたとの事実及びBと原告の最初の出会いが銀座のクラブであったとの事実が、原告の社会的活動等に何らかの関連があるとも認められない。

なお、このような私人の私生活に関する事実について、一般社会において話題となり、読者ないし視聴者の好奇心を充たすという観点からの興味本位の記事ないし報道が数多くなされていたからといって、これにより私人の私生活に関する事実が国民の知る権利の対象となるわけではないことは明らかである。

右に述べたところによれば、本件記事は公共の利害に関する事実には該当しないと判断するのが相当である。

したがって、本件記事はそもそも公共の利害に関する事実には当たらないから、この点に関する被告らの主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

2  しかし、本件記事が真実であるか、少なくとも真実であると信ずべき相当の理由があったかという点は、違法性の程度ひいては損害の程度に影響することが明らかであるから、この点について以下判断を加える。

(一) 甲第一号証、第二号証、第三号証の一、二、第四号証の一、第一一号証、乙第五号証、証人Dの証言、被告藤田、被告内野及び原告各本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  被告藤田は、Dと食事をした後、偶然Xを通りかかったときに、DからXに原告が勤めていたという話を聞いたので、その翌日、Dに確認の電話をし、記事にする前提で取材をしたいと申し入れ、Dが記憶している内容をファックスに書いて被告藤田に送ってもらった。

(2)  本件記事についての週刊宝石編集部の体制は、編集長が折敷出であり、編集担当者である被告内野の下に取材記者である被告藤田、荒木及び西川がいた。

(3)  被告藤田は、平成一〇年一〇月二日ころ原告の自宅を訪ねたが留守であったため、自分の名刺(甲第二号証)に「A様 以前、銀座のXというクラブでアルバイトしてらっしゃったと伺ってます。事実関係をご確認したいので改めて参ります。」と書いて、原告宅の郵便受けに入れておいた。原告が、右名刺を発見したのは同月五日であった。

(4)  同月八日、本件週刊宝石のプラン会議が、週刊宝石編集部内で行われ、被告折敷出は、本件記事のプランを聞き、被告内野から複数の証言者より証言も取れている旨の報告があったことから、掲載へ向けての取材の指示をした。

(5)  原告の父親である栗尾泰弘は、同月八日、右名刺を原告から見せられて、被告藤田に電話をし、原告の代理人である旨を告げた上で、名刺に記載されていたような事実はない旨を伝えた。

(6)  本件原告訴訟代理人の紀藤弁護士は、同月九日、原告の代理人として、被告折敷出宛に、原告が銀座のクラブでアルバイトをしていた事実はないので、事実無根の記事の掲載はやめてほしい、もし記事が掲載された場合には不法行為に基づく損害賠償の請求をする旨を記載したファックス(甲第三号証の一)を送った。

(7)  紀藤弁護士は、同月一〇日、原告の代理人として、週刊宝石の編集部を訪問し、被告折敷出及び被告内野に対して、原告がXに勤務していた事実を否定していることを伝えるとともに、原告自身がこの件に関して編集部に来て話をしてもよく、そのために翌日は原告が予定を空けている旨を伝えた。しかし、被告折敷出らは、原告の取材を行わなかった。

(8)  同月一〇日、週刊宝石の編集部で編集会議が行われ、被告折敷出は、被告内野の担当デスクである山中と協議した上で、本件記事の掲載を決定した。

(9)  紀藤弁護士は、同月一二日、原告の代理人として、被告折敷出宛に、再度記事掲載をやめるよう申し入れ、もし記事を掲載する場合の原告代理人弁護士のコメントとして、「ご指摘の事実は全くありません。事実無根の記事の掲載については、法的な措置を取らせていただきます。」と掲載してほしい旨のファックス(甲第四号証の一)を送った。

(10) 本件週刊宝石の実際の発行部数は、五四万二〇〇〇部であった。

(二) 被告内野は、本件記事の作成に関し、Xで原告が働いていたのかどうかについては、西川記者にXや銀座の関係者に対する取材を指示したが、Xについて詳しく知っている人が見つからず、原告がXで働いていた事実を確認するには至らなかった旨(第六回口頭弁論の被告内野本人調書(以下「第六回被告内野本人調書」という。)一五、一六項、第七回口頭弁論における被告内野本人調書(以下「第七回被告内野本人調書」という。)一六項)、また、荒木記者にZ部屋の関係者からの取材を指示したが、Z部屋の関係者で話をしてくれる人は見つからなかった旨(第六回被告内野本人調書二二、二三項、第七回被告内野本人調書一六項)、更に被告内野自身も、Xに行ったことがある知人にXがどのような店であるかなどを問い合わせたが、本件記事のような原告の話は出てこなかった旨(第七回被告内野本人調書一七、一八項)を供述しており、本件記事の内容の中心は被告藤田の取材によるものであったことを認めている(第六回被告内野本人調書二四項、第七回被告内野本人調書一九項)。

(三) そこで、本件記事の真実性及び真実であると信ずべき相当の理由があったかについては、被告藤田の取材内容及びその取材対象であったDの証言内容の信ぴょう性について検討する必要があるところ、まず、Dは、原告がXでホステスのアルバイトをしていたのを目撃したと証言している。

Dが、原告を目撃したとする状況は、XにDが行ったときに一回だけ、VIPルームに原告が座っているのを、三〇坪の広さがある店の対角線上から目撃したというのであり(同人証人調書一三ないし一七、二一九なし二二五項)、Dが、その時目撃した人物が原告であると思ったのは、現役のスチュワーデスがアルバイトに来ているとホステスに聞いたので、目立ってかわいい子だという印象が残っており、平成六年二月の原告とBの婚約記者会見をテレビで見て、似ていると思い、Xに勤めていたホステスの何人かに確認をしたところ肯定されたからであると証言する(同人証人調書一一、一二、二七ないし三〇項)。

しかし、Dは、右確認をしたというホステスの氏名等を明らかにしないから、この点に関する証言の信ぴょう性を客観的に検証することができない上、Dが原告を目撃したと証言している状況は、初対面で当時は名前なども知らなかった女性を、同じ店内とはいえ遠くから見ただけというのであるから、その正確性についてはかなり疑問を抱かざるを得ない。さらに、その九か月以上も後にテレビで見た原告を、Xで目撃した女性と同一人物であると判断した理由についても、単に目立ってかわいい子との印象が残っていたというだけであって、何らかの具体的な記憶と結びついていたわけではないから、信頼性のある証言とは到底いえない。

また、Dは、本件記事が発表される二、三日前にゲラを見て記事の内容を確認したが、内容に間違いはなかったと証言しているところ(同人証人調書五六、五七、一七七ないし一八六項)、本件記事の内容には、前記のとおり、原告とBとが最初に出会ったのは銀座のクラブであったという内容が含まれているが、Dは、XでBを見たことはなく、「若関は来ていないんじゃないですかね。」と本件記事と矛盾する証言をしており(同人証人調書三一、三二項)、更に本件記事の「その過去を知っている人は、身内を含めてごく少数です」という部分については、単にDの推測に過ぎないことを認めている(同人証人調書一九一ないし一九五項)。

以上に述べたところからすると、DがXで原告を目撃したとの証言は、その信ぴょう性又は正確性に疑問の余地があり、その他の本件記事に関する証言についても、直ちにこれを採用することはできない。

(四) そうすると、被告藤田は、被告Dから取材を行った旨を供述しているが、Dの本件記事に関する目撃証言の内容等に疑問を持たざるを得ないことはすでに判断したとおりであるから、Dに取材をしたことをもって、被告らが本件記事の内容を真実と信ずるについて相当の理由があったものと認めることはできない。

(五) また、被告藤田は、Dから紹介を受けたXの常連客という杉山及び元XのホステスというEに対して取材を試み、杉山については、直接会うことができなかったので、電話とファックスのやり取りで取材をし、Eには直接会って取材をした上で、杉山とEの話がDの話と一致していたので間違いがないと思った旨を供述し(第五回口頭弁論における被告藤田本人調書(以下「第五回被告藤田本人調書」という。)一四ないし二一、六四ないし六七項)、Eからは、原告の源氏名が恵美里で、Xに在籍していた期間は平成五年三月から四月くらいの間であり、Xには三、四回しか来ておらず、Xには貴乃花は来たことがないが、B、貴ノ浪、貴闘力らは常連で、Z部屋はひいきにしていたと聞いた旨供述している(第五回被告藤田本人調書七三項、第六回口頭弁論における被告藤田本人調書(以下「第六回被告藤田本人調書」という。)一六二項)。

しかし、D及び被告藤田は、各尋問において杉山とEが具体的にどのような人物であるかを特定するに足りる供述をしておらず、この点に関する証言の正確性を客観的に検証することができないから、杉山とEに取材を行ったとの被告藤田の証言をもって、真実と信ずるについて相当の理由があったものと認めることはできない。

(六) さらに、被告藤田は、平成一〇年一〇月一二日午後六時ころ、Xの店長である池田に電話で三、四分取材をし、原告がXに勤務していたことがあるかどうかを聞いたところ、池田は、そういう話は聞いたことがあるけれども、当時自分は店長ではなかったので分かりかねると回答し、ママと代わって欲しいと言ったところ、ちょっと忙しいので勘弁してくれと言われたが、被告藤田は、池田の対応が逃げ腰だったので間違いないと判断した旨を供述している(第五回被告藤田本人調書二六、二七項、第六回被告藤田本人調書一ないし四、一七ないし三七項)。

しかし、甲第一二号証(原告訴訟代理人とX関係者との間の電話の録音反訳書)によれば、平成一〇年一〇月当時、Xの部長であった池田は、原告訴訟代理人からの電話による質問に対し、原告がXに勤めていたかどうかという問い合わせを受けたかも知れないが、原告がXに在籍したことはなく、働いたことはないので、その旨の返答をしたはずである旨述べたことが認められ、このことに照らすと、被告藤田の右供述はにわかに採用できない。

(七) そして、すでに認定したとおり、原告訴訟代理人が、平成一〇年一〇月一〇日に週刊宝石の編集部を訪問し、被告折敷出及び被告内野に対して、原告がXに勤務していたという事実を否定していることを伝え、原告自身がこの件に関して編集部に来て話をしてもよく、そのために翌日は原告が予定を空けている旨を伝えたにもかかわらず、被告折敷出らは、原告の取材を行おうとしなかったのであり、本件記事を原告の取材を行わずに掲載しなければならないような緊急性があったとは認められないから、原告に対する取材をしないで本件記事を掲載したことも、被告らの取材に不十分な点があったというべきである。

(八) 以上に認定、判断したところによれば、本件記事が真実であるとは認めることができないのみならず、被告らの取材活動は、本件記事の主要な取材源であるDの証言内容の信ぴょう性等に疑問があり、Xの関係者に対する取材も慎重にされたとはいえず、原告が取材に応じる意向を示したにもかかわらず、直接話を聞こうとしないなど、極めて不十分なものであったというべきであるから、被告らが本件記事の内容を真実と信じたことについて相当の理由があるとは認められない。

三  争点3(損害、謝罪広告等)について

1  以上によれば、本件記事について取材し、記事を作成、編集した被告藤田及び被告内野は、記事の執筆、編集に当たって他人の名誉を毀損することのないように注意をすべき義務があるにもかかわらずこれを怠ったものであり、また、被告折敷出は、週刊宝石の編集長として、記事の掲載により他人の名誉を毀損することのないように注意をすべき義務があるにもかかわらず、これを怠って本件記事の掲載を決定したのであるから、右被告らは、民法七一九条、七〇九条、七一〇条により共同して不法行為責任を負うというべきである。

そして、本件記事の執筆、掲載、頒布は、被告光文社の従業員である被告藤田、被告内野、被告折敷出らが事業の執行につき行ったことは明らかであるから、被告光文社は、民法七一五条により不法行為責任を負うというべきである。

2  また、前記のとおり、本件広告は、日刊新聞紙等の新聞広告や全国主要都市の電車や地下鉄の中吊り広告にも掲載されたことが認められるところ、右広告はいずれも本誌の販売促進のためになされたものであるから、右広告によって原告に生じた社会的評価の低下も本件記事掲載の不法行為と因果関係があるものと認められる。

3  そして、すでに認定した本件記事の内容、本件週刊宝石の発行部数及び本件広告の態様、原告の社会的地位等諸般の事情を考慮すると、原告が受けた精神的苦痛に対する損害賠償額は二〇〇万円と認めるのが相当であり、本件訴訟の内容、後記謝罪広告を含む認容の程度等を勘案すると、右不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は五〇万円と認めるのが相当である。

4  原告は、損害賠償のほか、名誉回復のための措置として謝罪広告の掲載を求めている。

謝罪広告の掲載については、その性質上、その必要性が特に高い場合に限って命ずるのが相当ではあるが、以上に認定してきた本件事案の内容、原告の社会的評価の低下の程度等を総合考慮すると、原告が毀損された名誉は、右損害賠償のみでは未だ回復されないものと認めるのが相当であるから、本件ではその必要性が特に高い場合に当たるものということができる。

そこで、被告光文社には謝罪広告の掲載を命ずるのが相当であり、本件広告が多数の日刊新聞紙にも掲載されたことも考慮すると、その方法、内容等は、別紙一記載のとおりの謝罪広告を別紙二記載の掲載要領に従い被告株式会社光文社の発行する週刊宝石及び読売新聞、朝日新聞の全国面に各一回掲載するのが相当である。

第四結論

以上によれば、原告の請求は、被告らに対して、連帯して二五〇万円及びこれに対する本件週刊宝石の発売日である平成一〇年一〇月一五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を求め、被告光文社に対して、右の謝罪広告の掲載を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六四条一項本文、六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺尾洋 裁判官 野口忠彦 裁判官 山下博司)

別紙<省略>

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